長寿と繁栄を
500ページの夢の束
トニ・コレット
アリス・イヴ
『Please Stand By』
ほのぼの感想&解説
自閉症のウェンディは『スタートレック』の大ファン。
着ている服も黄、赤、青色の服。
リュックにも紋章が。
飼っているワンコのチワワのピートには、彼女が編んだ同作品のクルーの衣装を着させている。
専属セラピストにも姉にも行先を告げず、脚本を直接提出しにパラマウント・ピクチャーズを目指し旅に出るウェンディ。
一人で外に出たところ、後ろから気配が。
ワンコのピートである。
「連れていけないわ」と追い返すもついてくる。
仕方なくカバンにいれてあげる。
そりゃいれるよ、あんな切ない顔されたら。
なんだこの可愛すぎるワンコは!
誰しもこのシーンで心を掴まれるはず。
ペット禁止と書かれたバスに乗る際にはバレないように隠していたが、
おしっこを我慢できなくなり車内でマーキング。
何もない大地で強制的に降ろされてしまう。
なんとこの可愛すぎるワンコ、軍用犬を主役にした『マックス』(2015)という映画に、“チワワ#6”という役柄で出演しているらしい。
さらに、彼のデビューは2013年で、車やバイクをカスタムする“Kustom Kulture”を描いたドキュメンタリー『Flake and Flames』という映画。
彼は本作で“ブラスター”という実名で出演している。
ウェンディのセラピストと姉がいなくなった彼女に気付き通報。
パトロール中の警官がスタートレックのリュックを抱えたウェンディを発見。
声を掛けるも走り出して逃げてしまうウェンディ。
追いついた警官のうち一人がクリンゴン語を話せたおかげで、ウェンディは心を開き、警察署に連れて行くことができた。
妹とセラピストたちともそこで再会。
クリンゴン語は『指輪物語』のエルフ語同様に、映画などポップカルチャーに影響を与え続けている。
その場凌ぎで適当に作られたものではなく、実際に使用できる言語なのだ。
エディ・マーフィ主演の『チャーリーと14人のキッズ』(2003)でもそこのところが描かれている。
マーフィ演じるパパが仕事をクビになり、子供も保育園に通わすことができなくなった。
そこで安い保育園を自分で運営するべく友人と協力しながら開園する物語。
そんな友人の一人がトレッキーで、子供とクリンゴン語で会話を交わす。
『宇宙人ポール』(2011)では、主演サイモン・ペッグとニック・フロストのオタク二人がクリンゴン語で会話をする。
『スタートレック』ネタだと、船員同士の間で意思疎通を図る道具として笛を使われるそうなのだが(疎くてすいません)、劇中でもそれが度々登場し、セラピストとウェンディの間で使用される。
バスを乗り継いで目的地に向かうウェンディの身にアクシデントが。
バスの運転手のおじいちゃんが居眠り運転をして事故ったのだ。
お爺ちゃんはどうなったかはわからないが、ウェンディは病院に運ばれた。
幸いにも大きな傷はなかったが、安静のため入院させられてしまう。
そんな時間はないので病院から抜け出すウェンディ。
ピートが見つからないので「ごめんね、必ずあとで会いに来るわ」と置いてかれたワンコ。
大人しく病院で留守番するピート。
電話している看護師にちょっかい出すのが可愛すぎて萌え死にそうになる。
もはや史上最高の犬萌え映画。
無事に締切間近にパラマウント・ピクチャーズのオフィスに到着するも、まさかの郵便のみしか受け付けていないと担当の男性に断られる。
しかしここまでどれだけ大変だったかと呟き…ブチ切れる。
彼を押し切ってオフィス内にあるポストに直接投函。
その後、脚本の審査結果の手紙が届く。
残念ながら落選はしたものの、彼らにその努力と思いは伝わっていた。
やはり夢中になれるものがあると人は強い。
オタク精神に幸あれ。
彼女の健闘を祈る。
“長寿と繁栄を”
明日自慢できるトリビア
魅惑の深海コーナー
クリンゴン語の歴史をご紹介いたします。
1979年に『スタートレック』初の劇場版が公開された。
この映画の冒頭シーンで、架空の異星人、クリンゴン人の戦闘員が叫ぶ。
Wly cha’! HaSata! cha ylghuS! ‘eH… baH!
(「戦闘準備!」「目標確認!」「魚雷スタンバイ!」「発射用意・・・発射!」)
これらの言葉は、映画の撮影現場で作られた。
好戦的なクリンゴン人の言葉らしく、威圧的で別世界の言葉に聞こえるよう工夫された。
この最初のクリンゴン語を作ったのは、この映画で宇宙船USSエンタープライズ号の機関主任スコットを演じた俳優ジェームズ・ドゥーアンだった。
しかしクリンゴン語は当初、ほとんど意味不明な短いセリフにすぎなかった。
しかし、ギネス世界記録によると、今やクリンゴン語は世界で最も広く話されている人工言語だという。
このクリンゴン語を創作したのは、言語学者のマーク・オークランド氏だ。
オークランド氏は、クリンゴン人が数多く登場するシリーズ3作目「スタートレック3/ミスター・スポックを探せ!」(1984)向けに、より多くのクリンゴン語を創作するために雇われた。
「プロデューサーたちは本物の言語のように聞こえるクリンゴン語を希望していた。本物の言語のように聞こえるためには、本物の言語である必要があると考えた」とオークランド氏は語る。
そこでオークランド氏は、劇場版第1作目に出てくるクリンゴン語を可能な限り書き出し、さまざまな音や音節の種類のリストを作成した。
そしてそのリストを基に、言語を組み立てていったという。
「異星人の言語を作るのが目標だったが、一貫性を持たせるために劇場版1作目でクリンゴン人が話した言葉と同じ響きでなくてはならず、さらに俳優たちがセリフを話せるように発音可能である必要があった」
クリンゴン語が異星人の言葉らしく聞こえるよう、オークランド氏はさまざまな言語の発音を採用し、さらにいくつかの「言語学のルール」を破った。
「人間の言語はパターン化される傾向がある。調和する音もあれば、しない音もある。私はこのルールを破り、クリンゴン語に本来、同一言語内に共存するはずのない複数の音を組み込んだ。クリンゴン語の音の中で実在する言語に見いだせない音はないが、独特な音の集め方をしている」
その結果、アラビア語、トルコ語、イディッシュ語、日本語、さらにはアメリカ先住民の言語のようにも聞こえる、本物の異星人の言葉らしき言語が完成した。
クリンゴン語は、喉の奥から声を出すのが大きな特徴、とオークランド氏は言う。
ドゥーアンが考案した最初のクリンゴン語のセリフのかすれた音に合わせるためだ。
クリンゴン人は、1966年から1969年まで放映されたテレビ番組『宇宙大作戦』にも登場したが、テレビ版のクリンゴン人は英語しか話さなかった。
オークランド氏が『スタートレック』に初めて関わったのは、1982年に公開された『スタートレック2/カーンの逆襲』だ。
オークランド氏は、登場人物の1人、ミスター・スポックの母語であるバルカン語のセリフを書くために雇われた。
「ミスター・スポックにバルカン語の話し方を教えたのはこの私だ」とオークランド氏は冗談交じりに語る。
オークランド氏は、クリンゴン語のセリフを俳優たちに教えるために、セリフをテープに録音し、さらにそれらを台本に盛り込めるよう特別な筆記システムを考案した。
この筆記システムは、英語のアルファベットを使用するが、大文字と小文字が入り交じり、発音表記のように機能する。
大文字は英語に存在しない音を示し、発音に多少の努力を要することを俳優らに伝えている。
映画の撮影が終了した時、オークランド氏は自身のクリンゴン語への貢献も終了したと考えた。
「当時はクリンゴン語が『スタートレック3』から離れて独り歩きするとは夢にも思わなかった。しかし、私が映画の制作に携わっていた時、多くの人に『あ、クリンゴン語の人だ! クリンゴン語で何か話してみて!』と言われ、スタートレックファンはクリンゴン語にも興味を抱いているのかもしれないと感じた。そこで、クリンゴン語の話し方を解説した本の執筆を始めた」
『クリンゴン語辞典』と題されたこの本は、1985年に出版された。
前半は文法の解説、後半はクリンゴン語・英語辞典という構成になっている。
「(クリンゴン語・英語辞典の制作は)文法の解説よりも難しかった。というのも、創作する言葉を決める必要があったからだ。私は、クリンゴン帝国の地理やクリンゴン文化と関係する言葉は作らないことに決めた。地理や文化に関する言葉が載っていない辞書を作るのはおかしいことだと分かっているが、そう決めた理由は、私は作家ではないからだ。私が物語や映画を書いているわけではない。(スタートレックの)テレビドラマや映画によって誤りであることが判明する可能性のあるものを作りたくなかった。そこで、まず作家たちにクリンゴン文化を創作してもらい、その後、『それはこういう名前だ』と伝えに行くことにした。その逆はない」
クリンゴン語辞典は初版発行以来25万部以上売れたが、出版後すぐにクリンゴン語を学ぶ人が増えたわけではなかった。
オークランド氏によると、学習者が増え始めたのは1990年代半ばだという。
「ちょうどインターネットが普及し始めていた頃で、人々は共通の興味を持つ仲間を見つけることができた。ある時、クリンゴン語学会(KLI)のローレンス・スコーエン会長からメールを受け取った。当時、私はクリンゴン語学会の名前を聞いたことがなかった。スコーエン氏から面会の申し入れがあり、さらに同学会はクリンゴン語の学習を中心とした活動を行う組織で、毎年総会を開催していると知らされた。まさかそんなことになっているとは思わなかった」
現在、KLIには約5,000人の無料会員と約300人の有料会員がおり、2018年7月19~21日にはインディアナ州インディアナポリスで25回目となる年次総会も開催された。
オークランド氏とKLIの副会長を務めるクリス・リプスコーム氏の推計では、クリンゴン語で流暢に会話できるほどの上級者は世界で20人ほどしかいないが、何とか会話できるレベルの人は数多く存在するという。
クリンゴン語人気は今も高まり続けている。
KLIのウェブサイトによると、クリンゴン語は「銀河系で最も急成長している言語」だという。
また、最新のテレビドラマシリーズ『スタートレック:ディスカバリー』はクリンゴン人を大きく扱っており、クリンゴン語の会話が延々と続くシーンがいくつも入っている。
なんと米国外のNetflixではクリンゴン語の字幕が表示されるほど。
また、言語教育プラットフォーム『デュオリンゴ』は昨年、クリンゴン語コースを立ち上げ、現在の学習者数はおよそ10万人に上る。
またシェイクスピアの『ハムレット』や『空騒ぎ』がクリンゴン語に翻訳され、マイクロソフトの翻訳サイト『Bing翻訳』でもクリンゴン語が選択可能だ。
また最近、オークランド氏が考案した発音表記に代わる筆記システムとして新たなアルファベットが創作され、実際のクリンゴン語で文章が書けるようになった。
クリンゴン語の他にも、『ゲーム・オブ・スローンズ』から生まれたドスラク語やヴァリリア語、ッ『アバター』のナヴィ語など、多くの言語が作られたが、これらの言語にはクリンゴン語と根本的な違いがある。
「クリンゴン語の後に作られたこれらの言語は、最初から言語として作られた。それこそが言語を創作する最善の方法だ」とオークランド氏は言う。
一方、クリンゴン語は当初、映画のセットのように作られたという。
仮に映画のセットにドアがあり、そのドアが物語の中で使用されない場合、セットの制作者らはわざわざそのドアが開くように作ったりしない。
「私は、映画に必要な分のみを創作したが、クリンゴン語はその後、大きな発展を遂げた。クリンゴン語は元々、完全に具体化された話し言葉として考案されたわけではないが、今やそうなっている」
一言教訓
オタク精神と共にあらんことを。