『カメラが捉えたキューバ』(2017)~社会の下で生きることが生み出す二面性~

ドラマ
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今宵の映画は…
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原題
Cuba and the Cameraman
公開
2017年
製作国
アメリカ合衆国
製作
ジョン・アルパート
マシュー・オニール
テッサ・トレッドウェイ
監督
ジョン・アルパート
脚本
ジョン・アルパート
出演
ジョン・アルパート
編集
デヴィッド・メネセス
音楽
ダニエル・フライベルク
撮影
ジョン・アルパート
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一行粗筋

70年代から現在までのキューバを撮り続けたアメリカ人とキューバの物語。

ほのぼの感想あるいは解説

このドキュメンタリー、かなり質が高かったです。

もともとキューバには大いに興味がありましたのでずっと観るのを楽しみにしておりました。

ゲバラ関連の本を読んだり、映画を観たりする中でキューバが社会主義政権を確立するまでは知っていましたが、その社会主義下で暮らすキューバの人々を直接見る機会は中々なかったわけです。

そこでこの映画に収められた貴重な映像の数々は見ごたえありまくりなのです。

監督を務めるジョン・アルパート氏が自らキューバに乗り込み撮影を務め、70年代からフィデル・カストロの亡くなる2016年までのキューバを映し出しています。

とはいっても2017年の映画なので、トランプ政権が終わり、バイデンが大統領となったことで変わる可能性のあるアメリカとの国交、そして最重要の転機であるラウル・カストロが第一書記を退任した今年の4月16日、これからのキューバは大きく移り変わっていく可能性があります。ラウルの後任はディアス=カネルが務め、彼はキューバ革命後に生まれた「キューバ革命未体験世代」であります。

これからどうなっていくのか注目です。

本作は、ラウルの兄フィデル・カストロを中心に政治の動きを見せていき、それとともに移り変わるキューバ国民の歓喜と苦難をカメラで捉えていきます。

まずはフィデル・カストロ

監督のジョンは直接フィデルに会い、彼の表情と言葉を引き出す。

葉巻をくわえ、ニコニコしながらリラックスしたフレンドリーな姿勢を見せたかと思うと、ふとシリアスな表情に変わり指導者としての威厳を見せつける。気の利いた言葉と指揮を高める言葉を巧みに使い分けることで人々を団結させる。

「寿命が来る前に死ぬ者はいない。いつかは知らないがね。」

死は必ず平等に訪れるのだから、死を恐れる必要はない。

そんな姿勢が彼に余裕をもたらし、野心を実現させる機動力を生み出す。

「未来のために今を耐えるのではなく、未来のために今を楽しく生きるのだ。」

かつてこう言った同胞エルネスト・ゲバラがそうであったように。

社会主義には良い面と悪い面がある。

物事には常に二面性があり、政治となると一人一人の生活を直接左右するため致し方ない。

それがしっかりと目に見えてわかりやすい構成で作られているのがこのドキュメンタリーの魅力。

キューバでは大学まで学費が無料、医療費も無料。

それはありがたいけれども、せっかくオバマ元大統領が国交を正常化したにもかかわらず、その後トランプが再び制限を設けたので国民の暮らしは窮屈である。オバマ政権の時に副大統領であったバイデンが現大統領になったことでどのような政策に乗り出すのかが今後の注目です。

劇中後半を観てわかる通り、キューバは観光収入が生活源として大きな役割を果たしている。

民事事業による観光収入は年間で30億ドルにも上るという。

キューバを訪れる観光客は年間でおよそ500万人弱。

そのうちの80万人近くがカナダとアメリカからの観光客。

現在、キューバでは60万人(4分の1)が自営業者となっており、その大半が観光業に従事している。

参照:東洋経済2020年11月17日, 著)白石和幸氏『キューバが「トランプ敗北」に大喜びする事情』

劇中でも、記者、メカニックやテクノロジー系に勤めていた人たちがその職を辞めて、ストリートで絵画やお皿を売って生活しているのが印象的であった。そして彼らは自由の効くその生活を楽しんでいます。

監督のジョンがその中の1人に対し、「それって資本主義で社会主義をもたらしたゲバラの思想に反するよね。お墓で泣いてるんじゃない?」というやりとりも面白い。

生活を制限すると必ず不満や反発心が芽生える。

それぞれが目指す自由の違いを目にする。

革命後、自由になり歓喜する者、ソ連崩壊後、自由を求めてアメリカに亡命する者、

アメリカから帰国する者を拒否する者、フィデル・カストロを敬愛する者、独裁とみなす者。

時代の変遷によってキューバの人々が抱いた愛と哀しみ、希望と絶望は誰もが共感できるものばかり。

本作で監督のジョンがキューバを訪れるたびに対面する老3兄弟がいる。

彼らは自作農に励みながら生活を営んでいる。

監督と初対面の時には、ラム酒を飲みながら陽気に歌って楽しそうに過ごしている姿がとても印象的であった。

しかしソ連が崩壊し、アメリカの経済封鎖が強化された際には国民は食糧危機に陥り、その中の良心のない者が彼らの畑から食物を奪い、家畜の牛や豚や鶏を殺し、食料にされてしまった。

絶望しながらも生きていくためには農作を続けざるを得ない、老3兄弟の複雑な表情が胸を痛めつける。

エンドロール後に、3兄弟の1人がこのように言う。

「死んだら貧富は関係ない。問題はどう生きたかだ。」

そして彼らに先立たれた妹さんの言葉も染みる。

「人生は空しい。徐々に擦り減っていくだけ。生まれた時はみんな幸せ。でも結局1人になる。」

生きるとは何なのか、幸せとは何なのか、人の数だけ物語がある。

このドキュメンタリーは自国と自分の生き方を改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。

老いと別れという必ず避けることのできないテーマも自然と横並びでカメラは捉えている。

変化を受け入れること、拒むこと、我慢すること、主張すること、それらは時に難しいこともあるけれど、古い伝統に捉われがちな日本には足りないものがキューバにはあるように感じました。

もちろん、キューバになくて日本にあるものもあります。それはこの映画を観て感じていただきたい。

共通するのは、みんな幸せを追い求めているということ。しかし幸せは手に入っても永遠には続かない。確かなことが少ない人生でそれは確かなこと。

でも足りないもののために立ち止まる必要はなく、今を楽しみたければ自分で未来を切り開けばいい、それを実践できる人はどこででも生きていける、地球という人類共通住居で。

映画を観る限りキューバには曖昧な意見を持つ人がいない。自分をしっかりと確立している。

亡くなったフィデル・カストロに対して、小さい子供が涙しているのが印象的であった。自分の考えを持っているからこそ涙を流せる。

早くキューバに行ってみたいです。

スペイン語留学を兼ねてキューバに行きたい。近いうちに必ず。

一言教訓

究極の幸せとは一瞬一瞬の幸せを逃さないこと

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