盛り上げ上手なオルカさん
オルカ
セルジオ・ドナティ
ロバート・タウン
シャーロット・ランプリング
ラルフ・E・ウィンターズ
ジョン・ブルーム
一行粗筋
ほのぼの感想あるいは解説
『ジョーズ』(1975)の大ヒットを機に大量生産されたジャンル、“モンスターパニック”。
とはいっても『ジョーズ』以前から低予算で製作できるジャンルでもあったため、予算の少ない小さな映画会社には愛されていた。
『ジョーズ』以前のモンスターパニックを代表する映画といえば1933年の『キングコング』に始まりますが、50年代から70年代頃に“B級映画の帝王”で知られるロジャー・コーマンなどがもつ低予算映画会社が多く製作し、ドライブ・イン・シアターで若いカップルがいちゃついて見るような娯楽映画として大量生産されていました。
その流れが変わったのが『ジョーズ』ですね。
低予算で大量生産されていたジャンルに莫大な金をかけて製作された映画が大ヒット。
“このジャンルは当たるんだ!”
そこからモンスターパニック映画はニーズを大衆向けに変えて再び大量生産されました。
『ジョーズ』でサメはロボットを作って撮影されましたが、低予算映画にそんな余裕はありません。
そのためモンスターを「ここぞ!」という時に出して、他は出さないことで生まれる恐怖を演出して観客を盛り上げる。
女体を見せびらかして少年たちを惑わすのも低予算映画の悪い癖である。
『オルカ』は誰がどう見ても『ジョーズ』のシャチ版なのですが、サメをシャチに変えただけでは面白みに欠けるし、勝ることはできません。
せっかく別の映画として公開するのですからオリジナリティを出さなければなりません。
『オルカ』の場合は何か…
シャチの感情が目に見えるように作られてるんですね。
『ジョーズ』のサメは感情が見えないからこその恐怖がある。
つまりは我々が海で突然出会うサメの恐怖です。
サメ=人間を喰う
この方程式が常識となっているからこそ自然と生まれる恐怖。
一方でシャチは人を食べません。
イルカが人を喰う映画も観てみたいですね。
それでは本作のシャチはどのように感情を見せつけるのか。
語っていきましょう。
まず『オルカ』は製作総指揮に大物ディノ・デ・ラウレンティス。
彼は前年1976年に『キングコング』をプロデュースしています。
この作品は初代『キングコング』(1933)のリメイク。
翌年1977年にラウレンティスは『キングコング』(1976)の続編を構想していたそうだが、それに匹敵すると考えた『オルカ』を製作。
ちなみに続編『キングコング2』は1986年に公開。
『オルカ』は低予算映画ではないためにキャストも豪華。
近年では『ハリー・ポッター』初期2作(撮影後に他界)でダンブルドア校長役を演じたことで知られるリチャード・ハリスと、『愛の嵐』(1974)、『マックス、モン・アムール』(1986)などで妖美な魅力をみせる名女優シャーロット・ランプリングである。
さらに『カッコーの巣の上で』(1975)のウィル・サンプソンも出演。
そして本作の主役はなんといってもオルカ。
オルカというのはシャチの英語名(Orcinus orca)ですね。
『ジョーズ』のように予算をかけられないモンスターパニック映画ではよく資料映像が使われています。
日本でいったらバラエティ番組がNHKから動物の資料映像をお借りして放送する感覚ですね。
本作のオルカは本物とゴムで作った人工のものを併用しています。
本物はアメリカにあるマリンランド・オブ・ザ・パシフィックとマリン・ワールド・アフリカという水族館にいる鍛錬されたシャチの映像フッテージが使用されました。
メスのYakaちゃん、オスのNepoくんという2匹のシャチが映った映像です。
彼らは1969年に捕獲され、Nepoは1980年に、Yakaは1997年にお亡くなりになりました。
劇中ではどちらが本物か人工か区別がつかないほどに精巧な作りに仕上がっている。
その証として人工オルカをトラックでセットに運んでいる最中に、動物愛護団体の方々が本物だと勘違いしてトラックを止めたほど。
見た目で判別は出来ないとはいっても、劇中の展開を盛り上げ上手なオルカは人工であることが見てわかる。
だって明らかに人間に物語性を仕込まれたような動きをするのだもの。
イルカのように躾でどうにかできる範囲を超えている。
そんな人間を襲う主役の人工オルカはマルタとニューファンドランド島(カナダの東海岸)の岸で撮影されました。
主役のリチャード・ハリス演じる漁師が、水族館にオスのオルカ(=シャチ)を売り出すために捕獲しようとします。
しかし銛が刺さったのは隣のメスのオルカさん。
さらには生け捕りにできず、そのメスのオルカを誤って殺してしまったというのが本作のキーポイントである。
『ジョーズ』のように捕獲後、逆さづりにされるオルカ。
そしてこのあとなかなか衝撃的なシーンを目にすることになります。
メスオルカのお腹から赤ちゃんが地面に落っこちるのだ。
まるでデヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』に登場する赤ん坊のような風貌。
そして死んでいる。
時折鳴り響かせる旦那オルカの鳴き声も恐々しい。
妻子を殺した連中を見つけるたびに旦那の憤る目ん玉がアップで映し出される仕様。
感情が見える怖さを感じる。
夫妻の死を目にするシーンの時にも旦那の目がアップで大きく映し出されるのですが、その時の旦那の目は涙ぐんでいるのです。というより泣いているように見える。
最終決戦はオスオルカvsリチャード・ハリスの流氷バトル。
オスオルカのトドメのさし方がこの映画で一番ぶちあがる瞬間です。
オルカの完全勝利。めでたし。