そんなことしなくても…
ブルータル・ジャスティス
ダラス・ソニアー
ジャック・ヘラー
タイラー・ジャクソン
セフトン・フィンカム
ヴィンス・ヴォーン
トリー・キトルズ
S・クレイグ・ザラー
一言粗筋
ほのぼの感想あるいは解説
『トマホーク ガンマンvs食人族』(2015)のS・クレイグ・ザラー監督の作品が日本で初上映ということで観てきました。
今時こういった作品を見かける機会が少ないのでニンマリ。
前半はタランティーノを彷彿とさせるとにかく無駄話の連続。
そして『パルプ・フィクション』のサミュエル・L・ジャクソンを思い起こさせるヴィンス・ヴォーン演じる相棒の警察官。(“マザーファッカー”は言いません、その代わりといっては何ですが、“アンチョビ”といいます)
この人、食事が大好きなんですね。
決定的なのが張り込みの間の車中での食事シーン。
チキンクリスプみたいなのを彼が頬張る。
パリパリという音が映画館に響き渡る。
隣に座るメルギブによると98分だかかけて食べていたそう。
なんなんだこの緊張感のないやりとり。
メルギブは食通な相棒の姿を呆れるくらい見慣れているんですね。
食事の終盤には塩をかけて味を変えるところも笑ってしまった。
パルプでサミュエルがハンバーガーについて熱く語るシーンを思い出してしまった。
ヴィンス・ヴォーンが張り込み中にタバコを吸う人を見かけて「映画みたいだなぁ」と言った直後に、メルギブがそれに合わせてタバコを吸うシーンもニヤッとしてしまった。
でもザラー監督はそういった緩めのシーンに急な暴力を加えてくるので心から笑えず常々気を引き締めて鑑賞している自分がいる。
メルギブがハマリ役で、色々トラブルを起こしてきた彼の私生活に合わせて脚本を書いたのかと思うくらい普段の彼のようであった。
IMDbによると、メル・ギブソン監督の『ハクソー・リッジ』(2016)にヴィンス・ヴォーンが出演した際に、彼がギブソンに本作の脚本を見せ、ザラー監督のヴィジョンを話したそう。
すると好意的な反応を示し、すぐに主演を務めることに決まった経緯がある。
でかしたぞ、ヴォンス・ヴォーン。
ザラー監督は『トマホーク ガンマンvs食人族』のカート・ラッセルのように往年のスターの使い方がうまい。
彼らが面白格好よく輝く見せ場も用意している。
病気の妻と治安の悪いところで暮らして迷惑をかけてしまっている娘のためにお金を稼ぎたいのに、問題ありな仕事っぷりのため60歳になっても昇進も昇級もできずに、さらなる問題を起こして免停という処分をくらい、お金に困る主人公が家族のためについに犯罪に手を染めてしまう…
この展開『ブレイキング・バッド』のウォルター・ホワイトではないか。
それぞれの妻役の女優も顔がどことなく似ている。
ただし本作のメルギブの場合、最初から悪人ではある。
劇中の淡々と進むフィルムノワールな雰囲気は、『ブレイキング・バッド』の映画版『エル・カミーノ』を思い起こさせる。渋い。
しかし突然のゴア描写は凄まじく体の芯を熱くさせる。
この構造は『トマホーク ガンマンvs食人族』と同じですね。
なんでその人の背景を見せておいて嫌な殺し方をするの。
全く見せる必要のない登場人物じゃん。
他の映画ならゴア描写を見せたいがための犠牲者として出てくる人も、彼の映画では観ている側に憤りと苦しみを増すかのような演出で殺される。
食人族の時は人間離れした完全なる化け物なのでそういうことしても仕方ないとも思ってしまうが、
本作では殺す側は人間なのにマスクをしているため表情が見えない。
殺される側の「やめて~」という表情がアップになる。
なんの拷問!
それにしても映画館で聞く重みのある銃声音がたまらなく心地よい。
『ヒート』のようなあの音ですね。やっぱり映画館っていいなぁ。
狭い空間で数人が闘う西部劇風な演出もたまらない。
「警察の横でごめんな、後ほど改めて埋葬してあげる」と親友に言ってあげる優しき心を持つヘンリー。
どうでもいいこと挟みますが、昔Twitterやってた時に、親友を演じたマイケル・ジェイ・ホワイト(写真右)に突然前触れもなくフォローされたことがありまして、私もフォローしました。
本作の(いい意味でアホくさい)エンドロールで彼だと判り何だか嬉しくなりました。
「マイケル・ジェイ・ホワイト…4年くらい前にフォローしてきた人だ!」っていうフォローされた人が映画に出ているという映画観てて初めての体験ですね。
アカウント残していたら、DMで「今日『ブルータル・ジャスティス』観て来たよ。カギをうまく飲み込めなかったのは残念だったね。吐いたシーンは劇中で一番笑いました。腸を裂かれてましたが無事でしょうか?とにかくお疲れ様でした。またね。」って送ってただろうなぁ。
ヘンリーが最後にあからさまに金を使っていることがわかり、警察にバレないか心配になりましたよ。
まぁメルギブも認めた言葉遣いの割に賢い男だから大丈夫かな。
エンドロールのノリノリな曲も監督が作曲したんですね。
自分好みな映画が作れる環境が今の時代もあることは、映画ファンにとっても新しいものが観れる機会が増えるということなので喜ばしいことである。
現代の悪趣味映画監督として独自の道で“救う気のない暴力”をこれからも描いて欲しい。
一言教訓
明日自慢できるトリビア
①配給のライオンズゲートが159分は長すぎるとみなし、観客を取り入れるためせめて130分程度に短くするよう依頼したが、ザラー監督が断ったためにアメリカでは限られた映画館での公開と同時に配信されてしまった。
②第40回ゴールデンラズベリー賞で「人命と公共財を軽視する無謀さに対する最低賞」にノミネートされているが、受賞したのはもちろん『ランボー/ラスト・ブラッド』である。