ミュージックビデオを見ている感覚です
エレクトリック・ドリーム
ラリー・ドウェイ
ヴァージニア・マドセン
一行粗筋
ほのぼの感想あるいは解説
本作の監督であるアイルランド・ダブリン出身のスティーヴ・バロンは、もともと映画を撮る前にミュージックビデオの監督として活躍していました。
代表作はa-haの『Take On Me』(1985)で、こちらは1986年のMTV Video Music Awardsにて6部門を受賞。
他にはマイケル・ジャクソンの『Billie Jean』(1983)を制作。
さらに音楽を担当したジョルジオ・モロダーは、『ミッドナイト・エクスプレス』(1979)、『フラッシュダンス』(1984)、『トップガン』(1986)でアカデミー作曲賞を3度受賞しているお方。
そして名曲揃いの『オーバー・ザ・トップ』(1987)も担当している。
本作でも『Take On Me』のようなミュージックビデオを見ているかのように、長尺で音楽がかかり、それに映像が合わせるという手法で突然のMTVチャンネルが幾度とスタートします。
これは80年代のアメリカで大流行した手法です。
1981年8月1日に開局したMTVでは、24時間ミュージックビデオが流され続けたわけですが、ここで注目を浴びて人気に火をつけることがアーティストの売れるための手段となったわけです。
つまりどれだけ奇抜で洒落た物珍しいミュージックビデオを制作できるか。
「デュラン・デュラン」なんかはその典型ですね。
そんな中、マイケル・ジャクソンの『Thriller』が1983年12月にMTVにて初めてMVが放送されました。
このMVは映画史においても重要な位置づけにあります。
約14分間に及ぶ長尺のMVは今見ても全く見劣らない。
往年のクラシックモンスター映画の展開を踏まえ、質の高い特殊メイクでそれを演出しています。
50万ドルという当時では破格の予算をつぎ込んで制作され、長尺のメイキングビデオも収録されたこのMVは結果的に900万本を売り上げたといわれます。
このMVを監督したのはジョン・ランディス、特殊メイクはリック・ベイカー。
『狼男アメリカン』(1981)コンビである。
ちなみにマイケルは『Thriller』を当初ゾンビものにする気はありませんでしたが、『狼男アメリカン』に感銘を受けたマイケルは変身場面のあるモンスター映画をやりたがったそう。
そこでリック・ベイカーは地獄から蘇った悪魔やゴブリンを提案しましたが、マイケルは“悪魔的なもの”に強い拒否反応を示したため、ベイカーは“踊るゾンビ”を提案し、あのMVの制作に至りました。
『エレクトリック・ドリーム』を始めとする、MTV感覚映画は80年代にこぞって生産されました。
サウンドトラックも売れるため、音楽を提供したアーティストと映画会社にとってはウィンウィンな関係なわけです。
中でも『トップガン』や『ビバリーヒルズコップ』、『フラッシュダンス』はサウンドトラックが大ヒット。
本作のエンディングには、主題歌の『Together in Electric Dreams』が流れ、ダンサーが躍ったり、80年代の風物詩エアロビ女性が躍ったりするMVが挿入されています。
これを監督したのも映画と同じくスティーヴ・バロン監督。
数々の名作MVを制作したバロン監督には容易いお仕事である。
もちろんブームはいずれ衰退していきます。
当時は飽きられるほどに大量生産されたジャンルも、当時を知らない人が見ると逆に新鮮に感じられるというのが時代を彩ったポップカルチャーの面白いところ。
だから映画は古びない。衰退することもない。
20年代にしろ、50年代の映画にしろ、100年後、70年後の未来人がそれを鑑賞するってヤバくないですか??
そんな経験がいくらでもできるのが映画。映画って凄いんです。
MTV感覚映画は、ミュージカル映画のような劇中の登場人物が自ら歌う気品のあるものではなく、登場人物が音楽に合わせて演技をする(観ている側からの視点)、とにかく映像的にも弾けていてパンチの効いた格好よさだけを追求したダサくも感じられるくらいに振り切ったところが魅力なのです。
『トップガン』を見ていただければわかります。
『Take My Breath Away』をバックにトム・クルーズとケリー・マクギリスがキスしていれば、はいロマンチックな絵の出来上がり。
本作の内容にも触れておきましょう。
といっても単純明快で、ある日購入したコンピュータが意思を持ち始め、主人公の恋愛をおせっかいしつつサポートしていく恋愛サクセスストーリーです。
近年だと人工知能と恋をする『her/世界でひとつの彼女』(2013)や、アンドロイドと恋をする『エクスマキナ』(2014)など…とは違い、とにかくポップで明るい80年代特有の陽気さが終始感じられるためリラクゼーション効果がある作品です。
なので感覚としては、コンピュータで自分たちの理想の女性をデータ化して、コンピュータと人形をプラグで繋ぐと実際に美女が誕生してわちゃわちゃする、お気楽なジョン・ヒューズ監督作『ときめきサイエンス』(1985)に雰囲気が似ています。
ちなみに本作のVHS発売当時の邦題は『エレクトリック・ビーナス』だったそうです。
完全に前年の『エレクトリック・ドリーム』の流れを汲んでいますね。
擬人化したマネキンに恋する青年を描いた『マネキン』(1987)もお気楽80年代ムービーですね。
『エレクトリック・ドリーム』のクライマックスには白雪姫のような展開があったり、コンピュータの衝撃的な爆発シーンもあり、見応えたっぷりです。
やっぱり80年代いいな~。