特殊効果で表現した宇宙規模の愛が見どころです
アルタード・ステーツ/未知への挑戦
一言粗筋
ほのぼの感想あるいは解説
本作で重要なアイテムであるアイソレーション・タンク。
近年でこれを取り入れた作品といえば『ストレンジャー・シングス』。
そう、監督のダファー兄弟は80年代に青春時代を迎えているため、この作品を観て影響を受け、ドラマ内に同じ描写を取り入れたことを公言している。
アイソレーション・タンクとは何か。
これは実際にアメリカで行われていた心理療法である。
光や音を遮った空間に入り、感覚を遮断して皮膚の温度に保たれた高濃度の塩水にプカプカと浮かぶことで平衡感覚を失わせ、脳と体にリラックス効果を与えて現実逃避させる。
本作の題材となったのは実際にこのタンクを考案して1954年にアメリカ国立精神研究所にて研究していたジョン・C・リリーという人物だが、アイソレ-ション・タンクの存在が一般的に知れ渡ったのは『アルタード・ステーツ』のおかげである。
彼は後々合法的にLSDやケタミンなどの幻覚剤を取り入れ始め研究を進めていった。
現在ではリラクシング効果があるとしてアイソレーション・タンクはスポーツ選手の間で使用されている。
他の映画だとスピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート』(2002)に類似したものが登場する。
劇中での目的は、未来予知能力がある3人の人間を利用して殺人を防ぐことである。
しかし予知能力者の意見を優先して、実際には殺人を犯していない人間を捕まえるというのは倫理的にどうなのかという問題提起がされる映画である。
ちなみに彼らのおかげで2054年のワシントンDCの殺人発生率は0%になった。
さらにちなむとこれも『ストレンジャー・シングス』にてオマージュされている。
主人公の科学者エドワードとその妻エミリーはやたらと全裸になるシーンが多い。
しかしこれはただのエロ目的ではない。
映画のテーマである生命の根源に結びつくよう人間の本来の姿を見せつけているのである。
メキシコの秘境に最高の幻覚剤があるということを知ったエドワードはさっそく収集にかかる。
現地の民族に幻覚剤の試飲をさせてもらうとなんとまぁ凄まじい効力。
なんだかホドロフスキーやデヴィッド・リンチを彷彿とさせる宇宙規模の映像の連続に目まいがする。
まさに観ている側も共にトリップ体験が可能。
こりゃ人類の起源も解りそうですな。
その後実験を繰り返すとついにエドワードの身体に異変が。
中々の特殊効果を駆使して『狼男アメリカン』(1981)より1年早く変身描写を試みていたのですね。
大好物です、こういった変身。
心配したエドワードの研究仲間は知人の医者に彼のレントゲン写真を見てもらうことに。
すると…
「おい冗談だろ?これはゴリラじゃないか」
なんてこった。
猿でした!
ここまで退化しないと生命の根源の核心はつけないのか!
ある意味『2001年宇宙の旅』(1968)の逆転発想。
今後の人類の進化のヒントは過去にあり。
それでも実験を続けるエドワードに最大の命の危機が。
この際に部屋が青っぽく光り輝き荒れ狂う描写は『ポルターガイスト』(1982)や『未知との遭遇』(1977)を彷彿とさせる。
スピルバーグイズムも忘れない、いいとこどり映画。
顔や腕が膨張するシーンはクローネンバーグ印ですね。
SF、ホラーファンにはたまりません。
終盤はなんだか切ない展開に。
人類の起源と進化を探るとともに、実は同時並行で真実の愛も見つけちゃうわけですね。
急に『Xメン』シリーズが始まったかと思いました。
エドワードと嫁が触れ合った瞬間に凄い展開になるんですね。
でも最後はいつもの裸に戻り抱き合ってエンディング。
ここまでして身を削らないと真実の愛は手に入らないのか。
という宇宙規模で愛を描いた壮大な映画でありました。
4DXがなくとも映画でトリップ体験はできる。
70年代が終わり、80年代という新しい時代の幕開けにふさわしい1本!
一言教訓
明日自慢できるトリビア
①ケン・ラッセルが監督に任命されるまで26人の監督に断られている。
②1981年の「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューでブレア・ブラウン(エミリー役)は、俳優とキャストの多くがアイソレーション・タンクを試したと語っている。ウィリアム・ハート(エドワード役)は実際に幻覚を起こしたそう。
③ブレア・ブラウンは本作の出演者を募集していることを知り、当初監督を予定していたアーサー・ペンのオーディション受け、三千人の中から見事選ばれた。
④ウィリアム・ハートのデビュー作である。マスコミは彼に対し、「クリストファー・ウォーケン以上のインテリジェンスあふれる大物新人」「いかにも現代的な甘さとクールな雰囲気は、リチャード・ギアにはない育ちの良さを感じさせる」「マーロン・ブランドのデビュー時を思わせる」などの賛辞を寄せた。
⑤ドリュー・バリモアのデビュー作である。