戦争に希望を持たせたらいけませんよ
ジョジョ・ラビット
トーマシン・マッケンジー
タイカ・ワイティティ
レベル・ウィルソン
サム・ロックウェル
スカーレット・ヨハンソン
『Caging Skies』
ほのぼの感想&解説
「気合が足りん!そんなもんか!」
「ハィルヒッラー!!ハィルヒッラー!!ハィルヒッラー!!ハィルヒッラー!!」
やーーーーーーーーーーーー!!!!!
最初から可愛すぎる展開。
こりゃ大好きなテイストの映画のようだ。
子供の頃、架空の友達がいた人もいるだろう。
しかしその存在は大人になると忘れてしまう。
それをしっかり描いたのがピクサーの大傑作『インサイド・ヘッド』(2015)だ。
主人公の女の子の感情が擬人化されてコミカルに描かれる。
その中でもライリーが幼少期に妄想して創り出し、大きくなった今では記憶の奥底で暮らしているビンボンというキャラクターに観るもの全員が涙したことだろう。
ピクサーが描いた作品で同様の物である『トイ・ストーリー3』(2010)では、おもちゃの持ち主が大人になるというおもちゃにとってのタブーを描き大成功した。
現実逃避したい者にとって、映画で現実を見せつけられる瞬間はツラい。
しかし生きていくとは、何かが失われていくことでもある。
それは皆が体験し、共感できたからこそ大ヒットしたのである。
それでも失ったものを忘れなければ自身の成長に繋がる。
『ジョジョ・ラビット』は無邪気な少年ジョジョを主人公に、その片鱗を冒頭で見せつける。
彼は『トイ・ストーリー』1作目のアンディであり、『インサイド・ヘッド』のビンボンが友達だった頃のライリーでもある。
そして幼少期の私なのかもしれない。
今年もこの季節がやってきました。
ナチス少年団ボーイスカウトへようこそ。
指導係でお調子者のキャプテンK。
負傷したことにより前線を離れ、子供の面倒を見させられているというわけですね。
演じるのは、昨今脂の乗りまくっているサム・ロックウェル。
『スリー・ビルボード』(2017)でアカデミー助演男優賞を受賞し開花、その後は『バイス』(2018)、『リチャード・ジュエル』(2019)と話題作に出まくり。
この映画で好きな場面をあげるとしたら、このボーイスカウトの一連のシーンでしょう。
ナイフを投げたら跳ね返ってきて刺さっちゃう子。
このボーイスカウトを見ると、やはり思い出してしまうのはウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』(2012)。
ストーリーは全く違うが、トイカメラで撮影したようなジオラマ的絵作りを得意とし、いい意味でアホっぽいキャラクターが続々登場し、コミカルな展開運びをする監督である。
そして衣装や細部のインテリアまでもこだわりにこだわるため、映像で見るよりも静止画で眺めていたい映画が多いのだ。
アートブックやメイキングが楽しい作品ばかり。
つまりはLEGO好きや、人形遊びが好きだった人にはたまらないのだ。
他にテイストが似ている映画は、フランスの国民的コミックを実写化した『プチ・ニコラ』(2009)が思い当たる。
無邪気な子供たちがハチャメチャな冒険をする愉快でとにかく楽しい作品。
ジョジョが所属する少年団は、1922年にミュンヘンで結成されたヒトラー・ユーゲントをモデルにしている。
しかしこの映画の彼らは、ただのボーイスカウトと化しており、戦争を忘れさせるくらいに平和である。
先輩にウサギを殺せと命令されたジョジョ。
もちろん殺せません。
馬鹿にされて逃亡。
ヒトラーに励まされる。
元気が出て走り回り、キャプテンKが投げようとした手榴弾をかっぱらった。
この時のタイカ・ワイティティの動きが最高。
手榴弾が爆発して吹っ飛び、顔に傷を負ってショボーン。
それにしても相棒のヨーキーを見ていると…
カールじいさんを思い出す。
そしてジョジョとヨーキーのコンビは、
サイモン・ペッグとニック・フロストに似ている。
ヨーキーの大御所感。
いつの日かジョジョとヨーキーのコンビで別の映画を観たい。
突如自分の家にユダヤ人が現れた。
お母さんがユダヤ人の女の子を家に隠して住まわせていたのだ。
ナチスに憧れ、ユダヤ人は敵だと植え付けられているため、最初はユダヤ人だからという理由で彼女を毛嫌いするジョジョだったが、彼女と接するうちに、根拠がなく意味をもたない差別に気付く。
ユダヤ人を庇った人たちが公開処刑されている光景を目にする。
目をそらすジョジョにしっかり見るのよと忠告する母親。
のどかに自転車をこいでいると、負傷兵の乗った車が道を通る。
その顔に笑顔はない。
子供には情報の核をみる能力がまだ身についていない。
ナチスこそがヒーローと思っているのは、子供ながらに仮面ライダーに憧れる感覚と同じ。
ユダヤ人というショッカーをやっつけるかっこいいヒーロー。
純粋な子供に戦争という悪が夢や希望を与えてはならない。
物事を俯瞰で見る客観的な視野の広さはまだ身についていない。
それがわかるカットが見られる。
塀に登った母親とその下にいるジョジョが一つの画面に映るも、母は足だけ、ジョジョは母を見上げている場面。
大人は上から見下ろし、子供は下から見上げなければ見えない。
どうでもいいがこのシーン、『トムとジェリー』の足だけおばさんを思い出した。
それにしても衣装のこだわりが伝わってくる。
これもウェス・アンダーソン監督の影響か。
事故後、ジョジョは少年団から離脱を余儀なくされ、町にチラシを貼るなど雑用を任せられていた。その職務中にヨーキーと偶然の再会。
このシーンが可愛すぎることなんの。
ハイルヒトラー。
ジョジョピンチ。
家に捜査が入る。
この際のハイルヒトラー祭りはツボにはいることでしょう。
なんと1分間に31回のハイルヒトラーが発せられている。
ハラハラ要素もあるものの、ユダヤ人の女の子がジョジョの姉になりきり、キャプテンKの助けもあり難を逃れる。
ついに戦争の現実を目にするジョジョ。
これが自分の憧れていた戦争なのかと絶望。
キャプテンKの姿がこのように見えたのは、ジョジョのわずかながらの現実逃避であろう。
そして再びヨーキーと再会。
ここで彼は中々深いことを言う。
「いま僕らの唯一の友達は日本人だけだ。彼らはアーリア人には見えないけどね。」
子供の純粋な視点で見た時に、どれだけ愚かでアホなことを大人がしているのかがわかる。
アーリア人以外は劣等種族と考えたナチスが日本人と同盟を結ぶ。
それなのにユダヤ人はあの扱い。
明らかにおかしな争いに子供ながらに疑問を持つ。
いや、ヨーキー…
溢れ出す中年感。
裸の大将のよう。
おにぎりを片手に持たせたい。
ヨーキーのフィギアをぜひとも発売していただきたい。
今年から年間ベストと併せて『ベスト・オブ・ヨーキー』部門を創ろうか。
その年で最も愛くるしいキャラクターに贈られる権威ある賞。
今年は今のところヨーキー。
ヨーキーを超す者は現れるだろうか。
私がこの映画で伝えたいことはヨーキーについてと、
エンディングに流れる曲!
絶妙の間からのダンスのシーンは言うまでもなく最高、だがしかし、この曲で私のハートは撃ち抜かれた。
ドイツ語ヴァージョンでかかるデヴィッド・ボウイの『Heroes』。
ボウイがドイツに住んでいた時に、当時彼のプロデューサーを務めていたトニー・ヴィスコンティが、ベルリンの壁の側で女性と愛し合っている姿を見てインスパイアを受け1977年に発表した曲である。
私のオールタイムベストに入る『ウォールフラワー』(2013)でも重要な曲である。
また、『ストレンジャー・シングス』でも重要なシーンで2度かかる。
歌詞に注目。
I, I will be king
僕は、僕は王様になるだろう
And you, you will be queen
そして君は、君は女王様になる
Though nothing, will drive them away
それらを追い払うものが何もなくても
We can beat them, just for one day
僕らは倒せるんだ、たった一日だけなら
We can be heroes, just for one day
僕らはヒーローになれる、たった一日だけならAnd you, you can be mean
そして君は、君は卑劣にもなれる
And I, I’ll drink all the time
そして僕は、僕はいつも飲んでいるのさ
‘Cause we’re lovers, and that is a fact
だって僕らは恋人同士だから、そしてそれは事実だし
Yes we’re lovers, and that is that
そう僕らは恋人同士、そうなんだからThough nothing, will keep us together
僕らを一緒にするものが、何もないとしても
We could steal time, just for one day
時間を盗むことはできるかもね、たった一日だけなら
We can be heroes, forever and ever
僕らはヒーローになれる、いつまでも永遠に
What d’you say?
君はどう思う?I, I can remember (I remember)
僕は、僕は思い出せる
Standing, by the wall (by the wall)
壁のそばに立っている
And the guns, shot above our heads (over our heads)
銃弾が僕たちの頭上を飛び交う
And we kissed, as though nothing could fall (nothing could fall)
そして僕らはキスをした、何者にも倒せないように
まさに新たなるジョジョの理想と想いを語っている。
明日自慢できるトリビア
①冒頭にドイツ語ヴァージョンのビートルズの『I Want to Hold your Hand』が流れるが、主人公の“ジョジョ”という名前は彼らの『Get Back』の歌詞から取られている。
②ヨーキーを演じたアーチー・イェーツ君は、リブート版『ホーム・アローン』の主役に抜擢されている。
『ジョジョ・ラビット』でロケットランチャーをぶっ放していた感じを見ると、相当暴れてくれそうで楽しみだ。
魅惑の深海コーナー
一言教訓
戦争は絶望を与え、平和は希望を生みだす、そして夢はその狭間にある。