ビッグマザーバグ!!
BUG/バグ
キンバリー・C・アンダーソン
マルコム・ペタル
ゲイリー・ハッカビー
マイケル・バーンズ
アンドレアス・シャード
一言粗筋
虫の恐怖に怯えだす男と女の異常生活
ほのぼの感想あるいは解説
数年前に息子が行方不明になり、旦那には暴力を振るわれ、そんな日々から抜け出すためにモーテルでひっそりと過ごしているアグネス。
親友が物静かな男を連れてきた。
彼は部屋のどこかで鳴く鈴虫に少しイライラしていた。
居場所を特定して始末。
これが彼らの出会い。
ここから彼の言動の異常さが増していく。
神経質な男を演じるのは目力が凄まじい俳優マイケル・シャノン。
とにかく本作の見どころは最初から異常なシャノンと、彼に呑まれていくアシュレイ・ジャッド演じるアグネスのエスカレートしていく異常性。
両者の間に介入できる者は誰一人いない。
終いにはアシュレイ・ジャッドのイカれっぷりがシャノンを超えていく。
こういう映画を求めていた。
起承転結などない、狂いに始まり、狂いに終わる。
ウィリアム・フリードキンは『エクソシスト』(1973)だけというイメージが変わる1本。
もちろん部屋に虫などいなく、二人の妄想である。
アグネスは過去のトラウマから症状を発症、一方のシャノン演じるピーターは軍隊に従事していた時の戦争のトラウマにより、軍の人体実験の対象になり色々されたという妄想を抱いている。
「歯に虫が入ってるんだ!」ということで歯を抜きまくるマイケル・シャノン。
どんどんエスカレートしていく彼の演技に笑ってしまった。
本作はもともと脚本のトレイシー・レッツが制作した同名舞台がありまして、そちらでもマイケル・シャノンが同じピーター役を演じているとのこと。
でも笑ったらきっと「何が可笑しい?」と詰め寄られそうな圧を感じるので本人の前で絶対に歯は見せられない。
「その歯には虫がいっぱいいるぞ!今すぐ抜いて顕微鏡で確認しなくては手遅れになるぞ!」とか言ってきそう。
ピーターは精神病院から脱走したらしく、彼を担当する精神科医がモーテルにやってきた。
モーテルはすっかり隅々まで虫除けが施されている。
小中学生の時に見せられたドラッグ依存症のビデオを観ているみたい。
なかなかインパクトがあって今でも印象に残っているので、本作を学校で生徒に見せればもっと効果があるのではないかと思う。
いや、逆にコメディとして捉えられる可能性もある。
その象徴のシーンがありまして、頼んだ覚えのない宅配ピザを受け取り、開封したと同時に顕微鏡で虫がいないか確認するマイケル・シャノンは見ものである。
そしてピザに大量の虫が潜んでいることを確認したシャノンはピザをぶちまける。
ピザを顕微鏡で覗く描写がこんなにも面白いとは。
まぁどうであれ彼らにとって絶対そこには虫がいるのだから、わざわざ受け取って「虫がいる!」というやり取りは滑稽でコントにも見える。
終盤の勢いは疾走感すら感じられ気持ちがいい。
アグネスの被害妄想は収まることを知らず、息子が政府に誘拐され実験台になったと言い張る。
彼女のセリフがドバァーッと畳み掛けるので、情報量が多くてなんかよく覚えていないけれど、アグネス自身もメスの虫を植え付けられたらしい。
そしてオスの虫を植え付けられたピーターと結合することで、最強のバグ・ジュニアが誕生すると豪語する。
自分の妄想に酔いしれて「私はビッグ・マザー・バグよ!!」と発狂する様は感動すら覚える。
「ピーター、一緒に幼虫を育てましょう!!!」
なにこのヤラシイ響きの提案。
しかしモーテルの外から聴こえるのはヘリコプターの音。
2人の妄想が行くとこまで行ってしまった。
隠れていることが政府にバレたと思い込み、もはや逃げ場はなくなったと感じる2人。
そして追い詰められた2人はガソリンを浴びて火をつけるという斬新なラスト。
しかしながらなんて美しい愛なんだ。
人生に侘しさと後悔を感じている女性が、精神を病んだ男性によって救われ、社会に居場所のない2人が共感して最後は共に滅びる。
ブラボー!!ハッピーバグエンド!
『アルタード・ステイツ』(1980)と並んで究極の恋愛映画ではなかろうか。
一言教訓
明日自慢できるトリビア
①撮影の間にクルーの多くが、宿泊するホテルの部屋にいた虫に噛まれて発疹に悩まされた。
②アシュレイ・ジャッドによると、イベントで初めてウィリアム・フリードキン監督に会った時に、『フレンチ・コネクション2』(1975)が大好きであることを伝えたという。しかしフリードキンが監督したのは1作目のみで、2作目はジョン・フランケンハイマーが監督を務めている。ジャッドによると、間違っていてもフリードキンはとても親切な対応をしてくれたとのこと。