映画紀行
映画を見れば誰かと共有して話したくなる。
しかし話す人がいない。
そんな映画愛好家は世界中に山ほどいることだろう。
私もその一人。
そこで私は独自の感想をネタバレ含んでただただ長々と述べる自己満駄話映画コーナーを創設した。
お役に立つ情報は一切なし!
しかし最後まで読めばきっとその映画を見たくなることでしょう。
さぁ集まれ映画好きよ!
今宵の映画は…
NJ
Us
原題
Us
公開
2019年
製作国
アメリカ
監督
ジョーダン・ピール
『ゲット・アウト』(2017)
出演
ルピタ・ニョンゴ
『それでも夜は明ける』
脚本
ジョーダン・ピール
編集
ニコラス・モンスール
『キアヌ』(2016)
『キー&ピール』(2015)
音楽
マイケル・エイブルズ
『ゲット・アウト』(2017)
『See You Yesterday』(2019)
撮影
マイケル・ジオラキス
『イット・フォローズ』(2014)
『ミスター・ガラス』(2019)
突然目の前に自分が現れて襲われる話。
ほのぼの感想&解説
出典:New Times San Luis Obispo
怖いなぁ、怖いなぁ~。
こういう現実社会メタホラーは好きなんだなぁ。
アメリカの現実を突きつけられる。
お前らは何者だと聞かれてドッペルゲンガーのルピタ・ニョンゴが
「私たちは“アメリカ人”だ」と答えた。
つまり、タイトルの『US』にはクローン人間と元の人間を合わせた“私たち”以外に“ユナイテッド・ステイツ”も含まれている。
そんな私たちとは移民のことである。
さすがコメディアン出身のジョーダン・ピール、いいセンスしてますね。
映画で描かれていることはアメリカ国民の格差社会である。
貧困層が裕福層の家庭を襲いに行く。
それが自分の姿をしているのだから恐ろしい。
裕福な立場から見れば、自分が生まれた場所、育った環境が違えばこうなっていたのかとクローンを見て思わされるが、彼らの立場なら、嫉妬心が生まれて略奪、犯罪へと手を染めているかもしれない。
この問題ばかりは世界中に当てはまる。
それがゆえにアメリカでの興収も公開から3日で約80億円、現在までに世界興収は約270億円以上と大ヒット。
『ゲット・アウト』でデビュー作ながらアカデミー監督賞を受賞したジョーダン・ピールの2作目だが、軽く期待を上回ってくれた。
冒頭にテレビCMで流れるハンズ・アクロス・アメリカとは、1986年5月25日に650万人もの人がアメリカの西海岸から東海岸まで手を繋いで15分間連結させた実際の大規模な運動。
10ドル寄付して列に並ぶのだが、集まった金額は1500万ドルほど。
単純計算で6500万ドルは集まるはずなのに。
そんな偽善イベントに違和感を持ったジョーダンピールは本作にそれを取り入れた。
現在でもチャリティーという名目で注目を集めることに快感を得て、それを利用してSNSの支持を集めている人は多くいる。
11という数字が度々出てきましたね。
遊園地での11番の賞品はマイケルのスリラーTシャツ、そして時刻が11時11分の時ドッペル一家がやってきた。
旧約聖書のエレミヤ書第11章11節。
「それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。」
なるほど。
わたくし個人的に11と聞くと、やはり80年代リバイバルブームの火付け役となった『ストレンジャー・シングス』を連想してしまう。
超能力をもった主人公の女の子の名前がイレブンなのだが、簡単に言うと彼女は人体実験で収監されて11という数字のタトゥーをいれられたんですね。
これまた本作と同様に地下研究所が登場するわけです。
クローン実験で使われたであろうウサギが地下室にはたくさんいましたが、ウサギは繁殖を意味する生物でもあるので、それをクローン人間は生で食うと言ってましたね。
つまりは繁殖を断ち切る、元の人間を殺して自分自身がオリジナルになろうとしていることを暗示している。
地下室のウサギといえば『不思議の国のアリス』であり、鏡つながりでいえば続編の『鏡の国のアリス』を連想させる。
さらに檻の中に白いウサギがたくさんいる中で黒いウサギが数匹しかいないのが気になったが、これもまた黒人の立場を表してるのですね。
動物でさえマイノリティ。
クローンでさえマイノリティ。
私はいつも思う。
ハリウッド映画でアジア人は存在すら触れられない。
まぁこの映画の場合、ジョーダンピールは黒人と白人の両親から産まれた自身の人生を反映しているからいいんだけれども。
その度に私は“いつしかハリウッドでアジア人として活躍してやる!”と宣誓。
ブルース・リーのように、ジャッキー・チェンのように、渡辺謙のように。
終盤に判明するこのニョンゴの入れ替わりを頭に入れて中盤を振り返ると、白色ニョンゴが裕福白人クローン一家をビクつくことなく惨殺するシーンは笑える。
N.W.A.の『Fuck the Police』がかかるのも最高。
殺したカウントを競い合うのはギムリとレゴラスを思い出した(笑)
真剣に見ている視聴者側の緊張感を緩めてくれる要素が突然やってくるのがまた新感覚。
ユーモアのタイミングを調整できるクリエイターって素晴らしいですよね。
そんなこんなで白色ニョンゴが突然家族にメキシコに逃げようと宣言。
こんな国もういれません。
トランプ政権に立ち向かう姿勢だ。
最後のハンズクロスアメリカをクローンたちが行いまるで壁を作っているかのような様は、まさにトランプがメキシコとの国境に壁を作り移民対策をしているのとわかりやすく合致する。
そして金属の壁ではなく、人の壁に置き換えることで、今こそ団結しようと訴えている。
セーカイハーヒトーツ♬
メキシコに向かうまでの間、途中車の前にクローンジェイソンが現れる。
降りて立ち向かおうとする白色ニョンゴ。
すると本物ジェイソンが影を操るかのように後ろに下がると自身のクローンも後退していく。
クローンジェイソンの後ろには燃えさかる炎が。
その時の白色ニョンゴの様子がおかしい。
クローンジェイソンなど死んでも構わないのに、彼女は「ノーノーノー」と嫌がっている。
そして後退した本物の方のジェイソンは赤色ニョンゴにさらわれる。
なるほど。
このジェイソンこそがクローンの方なのかな?
我々がクローンだと思っていたジェイソンが本物で、白色ニョンゴは実はクローンなことは判明するので、彼女の息子が焼死したジェイソン。
そういう視点で見るとさらに面白い。
ラストでクローンニョンゴがジェイソン君にニヤつくシーンは、冒頭のMJのスリラーTシャツからのMVのラストでのMJのニヤつきへの伏線回収だったのですね。
結末わかって見るとさらに面白いんだよなぁ。
そんな感じで細かいところまでしゃぶりたい映画。
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明日自慢できるトリビア
①息子ジェイソンは『13日の金曜日』(1980)のジェイソンを意識している。
マスクの下は火傷でただれた顔の本作のジェイソン君と、ホラーの申し子ジェイソン・ボーヒーズも顔がグチャグチャ。
さらに母親に守られているという共通点もある。
クローンニョンゴはビーチで息子がトイレに行っていなくなっただけで、寝る前に部屋で息子と話し合いの場を設ける過保護っぷりだ。
ジェイソン・ボーヒーズ君は幼少期に顔の障害が原因でいじめられたことで、友人のいる若者たちが欲望にまみれてキャンプにきたのを殺戮していくが、これも本人の意図ではどうにもできない容姿が引き起こした問題である。
②クローンが着ているジャンプスーツの赤色は『スリラー』のMVでマイケルが着ていた衣装の赤色を意識している。
その他にも同じ色で統一した格好はオレンジ色の囚人服を連想させる。
スリラーといえば墓地から這い上がってきたゾンビと一緒に踊る。
彼らも地下から這い上がり団結しようとしている点で、マイケル・ジャクソンを崇拝しているのかもしれない。
マイケルといえば『Black or White』(1991)や『We Are the World』(1985)など人種を超え団結し、富を持つものが貧困に喘ぐ人々を救おうと行動してきた人物だ。
この映画の象徴である。
ジャンプスーツは『ハロウィン』(1978)のマイケル・マイヤーズから。
“マイケル違い”というジョーダンピール流ジョークだろう。
③クローンが着けているグローブは『エルム街の悪夢』(1984)のフレディ・クルーガーを意識。
しかし本作のクローンたちの場合、夢ではなく真の現実を現実社会の人々に見せつけようとするところに面白さがある。
④クローンの武器はハサミだったが、あれは何を意味するのか。
ハサミは線対称になっていて、それはクローンと元の人間の関係性を表している。
そしてハサミは切るためにある道具。
日用品にもなるが、凶器にもなる2面性をもっている。
終盤で地下室にいる赤色ニョンゴがハサミで手繋ぎ切り絵をチョキチョキ切り刻んでいたが、つまり元の人間との繋がりを切るということ。
まぁ赤色ニョンゴは元の人間なので彼女の場合、白色クローンニョンゴを切り刻みたいわけだ。
ハサミ映画といえばこれまた80年代のホラー映画『バーニング』(1981)を彷彿とさせる。
一言教訓
生まれる土地と育った環境は選べないので自分自身で道を切り拓しかない。
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